在宅勤務・テレワークを導入!就業規則・規定の変更は必要?定めるべき項目と注意点

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在宅勤務・テレワークを導入!就業規則・規定の変更は必要?定めるべき項目と注意点

新型コロナウイルスの感染拡大が広がる中、在宅ワークを取り入れる企業も多くなり、これまでそのような体制での勤務を想定していなかった企業はルール作りや環境づくりに大変な思いをされているのではないでしょうか。

 

また、従業員(アルバイトなどの含む)を常時10人以上使用している企業は、法律によって就業規則の作成が義務付けられています。そうした企業が在宅勤務を導入する際、就業規則を新しくして労働基準監督署に届け出なければいけません。以前に作成した就業規則を、そのまま流用してはいないでしょうか?

 

本記事では、在宅勤務・テレワークの導入時に必要な就業規則について、その作り方をご紹介します。

 

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在宅勤務・テレワーク導入で就業規則は変更する必要がある?

在宅勤務の就業規則

結論から言うと、テレワーク・在宅勤務規定として別規定を設けることが望ましいです。ただし、週に1度や2度のテレワークの状況であれば、勤務制度までを変える必要はないでしょう。導入したからといって、必ずしも就業規則の変更が必要になるわけではありません。厚生労働省が公表しているパンフレットでは、次のように述べています。

 通常勤務とテレワーク勤務において、労働時間制度やその他の労働条件が同じである場合は、就業規則を変更しなくても、既存の就業規則のままでテレワークが勤務できます。

参考:テレワークモデル就業規則~作成の手引き~ 厚生労働省

 

基本的には労働時間と賃金が同じであれば、就業規則の変更は不要です。ただし、以下に挙げる例のように労働条件が変わる場合、就業規則の変更が必要になります。

  • フレックスタイム制など従来の労働条件と変わる点がある
  • 通信費用を従業員に負担させるなど、通常勤務では生じない負担がある
  • 通常勤務と在宅勤務で変わる点が多い

ではなぜ、労働条件が変わると就業規則の変更が必要になるのか。主には次の観点が要因となります。

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業務管理など実務上の問題が生まれる

在宅勤務を導入し、オフィス勤務と比較した際に社員同士のコミュニケーションや勤怠等の日々の業務管理が難しくなります。企業側が行う必要のあるマネジメントの質を維持するためには、在宅勤務従事者に合わせた規定や運用に必要なルールを定めなくてはなりません。

 

企業側で業務を適切にマネジメントを行う事により、社員それぞれが離れた場所で業務を進める際にもチームや部署内の生産性を維持する事に繋がっていきます。

労務管理上、労働基準法に基づく問題がある

在宅勤務の導入を始めると、社員が日々行う業務内容にも変化がもたらされます。その一方で厚生労働省が定めている労働基準法によると「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。」(労働基準法第93条、労働契約法第12条)と記されています。

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在宅勤務の就業規則で決めること

では、在宅勤務に際し就業規則を変更する場合、具体的に何を決めれば良いのでしょうか?一般的には次の3項を決定します。

  1. 在宅勤務を命じることに関する規定
  2. 在宅勤務用の労働時間を設ける場合、その労働時間に関する規定
  3. 通信費用など従業員の負担に関する規定

厳密に言えば、変更するのではなく既存の就業規則に、在宅勤務に関する規定を盛り込む形になります。厚生労働省では就業規則本体に盛り込むのか、新たに「在宅勤務規定」を作成するのかは個々の企業の判断によるとしています。

就業規則のイメージ

上記イメージのように、在宅勤務だけでなく必要に応じてサテライトオフィス勤務やモバイルワークなど、就業形態に応じた就業規則を新たに盛り込む必要があります。

就業規則へ盛り込む具体的な内容

就業規則

厚生労働省が公表している在宅勤務(テレワーク)の就業規則モデルでは、就業規則へ盛り込む内容として次の事項を挙げています。

  • 就業規則の委任規程
  • 在宅勤務(テレワーク)の定義
  • 在宅勤務(テレワーク)対象者(全員を対象とする場合、勤続年数に制限を設ける場合、育児・介護・傷病等に限定する場合などケースに応じて作成)
  • 在宅勤務(テレワーク)の服務規律
  • 在宅勤務(テレワーク)の労働時間(通常労働時間、フレックスタイム制、事業場外みなし労働時間制、裁量労働時間制など個別に作成)
  • 在宅勤務(テレワーク)時の休憩
  • 在宅勤務(テレワーク)の所定休日
  • 在宅勤務(テレワーク)の時間外労働
  • 在宅勤務(テレワーク)時の出退勤管理
  • 在宅勤務(テレワーク)の賃金
  • 通信費用などの負担及び情報通信機器などの貸与

項目としては少ないので、就業規則を作成したことがある人材がいれば簡単に作成できるでしょう。上記に挙げた事項以外にも、独自に盛り込んだ方が良いとされる事項は必ず入れましょう。

特に重要な定めるべき項目の例

企業が在宅勤務導入に伴うメリットを最大限に活かすためには、導入に伴って生じる「実務上の問題」及び「労働基準法上の問題」を解決しなくてはなりません。それぞれの問題を解決するために、企業ごとに在宅勤務規定を定める上で見直すべきポイントについて詳しく紹介していきます。

在宅勤務・テレワークの定義

そもそも、在宅勤務やテレワークというのは、どのように定義しているのかを表記したものです。例えば、在宅勤務についての定義、サテライトオフィス勤務についての定義、モバイル勤務についての定義を記載したものです。

 

厚生労働省が公表している情報(テレワークモデル就業規則※)によると、テレワークの定義は、「ICTを活用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」としており、「テレ(Tele)離れたところで」「ワーク(Work)働く」という意味を持ちます。

https://www.tw-sodan.jp/dl_pdf/16.pdf

在宅勤務・テレワーク対象者に関する規定

対象となる人はどのような条件を満たしている人かを定めたものです。例えば、テレワークをしたとしても業務の成果について通常の勤務と変わらずに出せる状況にある人、作業環境が適切な状態になっている人、会社との連絡方法がしっかりととれる人など、条件として入れると良いでしょう。

 

また、厚生労働省が設けている「テレワークモデル就業規則」の定めによると、在宅勤務を行う対象者を「在宅勤務を希望する者」としています。ですが、このような内容の定めを企業側が設けた場合「希望しない従業員には在宅勤務を行わせる事ができない」という形になります。

 

そのため、在宅勤務規定の対処者の項目には「会社は従業員に対し、業務上の必要により在宅勤務を命ずる事ができる」という内容の定めとし、企業側が従業員に対して在宅勤務を命じる事ができる形にしておく事が望ましいでしょう。

通勤手当に関する規定

通勤手当に関しては、定期代相当額を毎月定額で支給する企業が一般的とされています。ですが、在宅勤務開始によって出社回数が減少した場合は定期代相当額を定額支給する必要が無くなるケースも生じてきます。就業日数のうち在宅勤務日数の割合が多くなる従業員に関しては定期代相当額の代わりに「実際の通勤に要する交通費」を支給するなどの方法を検討する事が望ましいでしょう。

機器の貸与、各費用の負担に関する規定

在宅勤務の導入に伴って、自宅で使用するパソコン、スマートフォンやプリンター等在宅勤務環境の整備に必要な備品の購入費用や、インターネット環境整備に必要な通信費、水道光熱費、消耗品費用について企業側もしくは従業員側がそれぞれどの程度負担するのかを事前に決めておく事が大切です。

 

また、このような費用について従業員に対し一定の負担を求める際にはその代わりに「在宅勤務手当」といった名目の特殊手当を支給するなどの具体策を講じる必要も生じます。

服務規定

服務規定においても、やはり在宅勤務独自のものを設ける必要が生じます。例としては、以下のようなものが考えられます。

  • 兼務資料や社外秘とされている内容の複写、第三者閲覧、自宅外への持ち出しを禁じる
  • 貸与を受けた機器に関しては業務外の用途に使用しない
  • 在宅勤務下における就業時間中は業務に専念する

在宅勤務の労働時間に関する規定

テレワーク中の労働時間が変更になる場合には、どのような時間数になるのか、開始時間から終了時間まで記載すると良いでしょう。また、所定の労働時間を超えた場合にはどうするのか、深夜残業に対してはどのようにするのかなども記載するべきです。

作成・変更した就業規則は届出と周知が必要

在宅勤務の導入に際し、就業規則の作成及び変更をする時は大まかな流れとして、次のような手順を踏みます。

  1. 就業規則を作成・変更する
  2. 労働者の過半数代表者からの意見書を作成する
  3. 就業規則の届けを作成し企業の捺印をする
  4. 必要書類を用意して管轄の労働基準監督署に提出する

「就業規則の届け」は、以下3点の書類を指します。

就業規則(変更)届

就業規則(変更)届は各種書類の表紙となるものです。決まった様式はないので、企業独自に作成して問題ありません。企業の名称、所在地、代表者の職氏名が記載されていれば提出できます。就業規則を作成した場合は「就業規則届」、変更した場合は「就業規則変更届」と記載します。

意見書(過半数代表者)

就業規則を作成・変更した際は、労働者の過半数代表から意見を聴取することが法律によって義務付けられています。これにも決まった様式はなく、新しい就業規則に対する意見と、過半数代表者の職氏名及び捺印があれば提出できます。意見がない場合は「特になし」と記載しましょう。

就業規則(本体)

作成・変更した就業規則を合わせて添付します。変更した場合、就業規則全部を提出しなくても変更箇所の新旧対照表があれば問題なく提出できます。

就業規則改定、別規定制定に伴う3つの注意点

最後に、就業規則の改定や別規定を定める際に注意したい3つのポイントをご紹介していきます。

在宅勤務における人事評価

1つ目のポイントは、人事評価に関する規定です。

「人物評価」重視から「成果・結果」重視への移行

これまでテレワークではなかったときには、勤務態度やプロセスでの評価ができましたが、テレワーク中にはそのような評価がしづらいため、人物評価から成果・結果に対する評価に変更する必要があります。

 

ただし、全てにおいてそのような評価制度にするのではなく、あくまでも成果を重視する評価制度に移行していくというイメージの方が良いでしょう。

在宅勤務者・通常勤務者の評価は平等に

在宅勤務者と通常勤務者の評価で偏りが無いようにする必要があり、在宅中で「頑張り」が見えないから評価できないと通常勤務者と差を付けたり、「在宅勤務して頑張っている」と評価を偏らせないようにしましょう。

在宅勤務中の労働災害

次に、在宅勤務中の労働災害も規定を設けるべきです。在宅中とは言え、勤務中にケガをすることもあるため、そのような場合に業務災害に当てはまらないとしない規定を作ることは通常業務との差が生まれてしまうため、在宅勤務中も労働災害の規定をしっかりと作りましょう。

在宅勤務環境下の情報セキュリティ

在宅勤務中は特に情報セキュリティの部分で通常業務よりもリスクが増えるケースが多いため、情報セキュリティに関する規定もしっかり設けましょう。在宅勤務の環境も含めてセキュリティの規定やルールを作ると良いです。

在宅勤務時でも従業員の不利益になるような行為はNG

労働基準法では、企業の利己的な言動によって従業員が不利益を被るような行為はNGとされています。就業規則にそうした内容が盛り込まれていると労働基準監督署から勧告を受けたり、監査対象になる可能性もあるので注意しましょう。

まとめ

近年の時世に伴って企業が在宅勤務を本格的に導入する場合、その殆どは導入の検討から運用までまだ時間がそれほど経っていない事がほとんどです。そのため、企業側が一先ず現状把握している範囲内で規定やルールを定めたとしても今後うまく運用する事が難しくなる可能性も十分はらんでいます。

 

そうした際にも、柔軟に制度を見直す事が可能な社内体制を構築する必要があります。企業側は長期的な視野を持ち、在宅勤務者、オフィス勤務者双方にとって公平性を感じられる社内規定や評価制度を整えておく事が今後の企業運営において非常に重要な課題となります。在宅勤務時の就業規則作成に関するより詳しい情報は、厚生労働省などが公表している情報を参考にしながら作成してみてください。また、就業規則の作り方が分からない場合などは、社労士などに相談してみると良いでしょう。